第81章メールが入った。
“明日も会えるよね。夕方には戻れると思うので、七時くらいには部屋にいます。お願いだから、私の我がまま聞いてください。敦美”
俺はため息をつきながらメールを閉じた。
特に敦美から逃げ出したいわけではなかったが、このまま永遠に敦美に拘束されるようで気が重かった。
しかし、敦美の心情を思えば、その望みに応えるべきなのだろうということは分っていた。
普通に考えれば、敦美への容疑が掛かるより、嫌疑が晴れる方向に向かう確率が高かった。無罪放免になってから、ふたりの関係をハッキリさせても遅くはなかった。
しかし、俺の身体のどこかで、危険を知らせるアラームが鳴っていた。
「そうは言ってもな……」俺は口に出しながら、了解のメールを送った。
特別な約束などはしていないのだから、どうにでも逃げられる関係のはずだったが、敦美が発散する細く粘り気のある糸で緊縛されている自分の姿が、バックフラッシュのように映像化されて網膜に映し出された。
そして、手にしている茶色の小瓶に目を移し、捨てるべきものなのに、捨てることに躊躇いがあった。
その躊躇いが何であるか、自分でも意味不明だった。小瓶の中身を何らかの事情で使う可能性がゼロではないような気がしていた。
使用する相手は、必ずしも他人だけではなく、自分に向けられることもあるのではないのか、そんな気分が充満した。
何も慌てて捨てる必要はないのかもしれない。家宅捜索などを受けても、絶対に見つからない場所に隠しておけば良いだけに思えてきた。
敦美の事件で、俺が疑われる可能性は少ないのだから、慌てて貴重な毒物を捨てる必要などはなかった。
これから、このような薬物を手に入れようと思ったら、どのようにしたら良いのか判らないのだから、隠し持っておく方が有利に違いないと、急に気持ちが大きくなっていった。
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