第72章時間は既に家に帰る時間を過ぎていた。この際、このまま敦美と朝を迎えるのが妥当だった。
依頼されているコラムの締め切りを1日伸ばして貰う必要があったが、勝手が利きそうな編集者なのが救いだった。
「それにしても、誰が彼を殺したんだろうね。敦美さんに、心当たりはないの?」
「そうね、私に飲ませた覚醒剤じゃないけれど、ああ云うものにも手を出していた可能性はあるのかも。アメリカと東南アジアが取引先の小さな商社だからね、何を輸入していたのか怪しいものよね。そうだとすると、色んな取引でトラブルを抱えている可能性は、沢山ありそうよ」
「旦那が、怪しい仕事に手を出していることは、結婚前から知っていたわけ?」
「私の父も、同じように怪しい取引はしていた人だもの、その父が見込んだ男だから、同じように怪しいに違いないと、結婚当初から思っていたわ」
「そうなのか、ゆくゆくは、事業を継がせようとでも思ったのかな?」
「いえ、それはないの。父は、小さな怪しげな会社なんかに、出資のような形で絡んでいるような人だったから、父の事業は、顔とお金が財産だったから、継ぐと云うことは出来なかったと思うわ。でも、門前の小僧のように、父のルートとかにも喰い込みながら、片山は、今の会社を大きくしていたみたい。だから、数年でナンバー2にのし上がったんだと思うの……」
「ふーん、単なる財産目当ての男とは違う側面があったわけってことか……」
「そう、私もはじめは、チンピラっぽい片山の態度から、そういう男かなって思っていたけど、そうでもないような気にもなっていたの、ただ、……」
「ただ、どうした?」
「そう、ただね。貴方に薬のこと指摘されてから、片山は2頭の獲物を追いかけるハンターなんだと思うようになったわけ」
「君の財産と、今の会社を自分のものにすると云う、その2つを?」
「そう、私の財産は、取った分だけの価値だけど、今の会社を大きくして、社長におさまれば、継続的に稼ぎ続けることが出来るわけでしょう。何だか、安定した土台と、現に稼働する手足、その2つを狙っていたんだろうなって感じだった……」
「なるほど、なかなか図々しい奴だったんだ……」
「頭、悪いのかと思って馬鹿にしていたけど、悪辣なくらい頭が良くて、それでいて狡かったのが、片山って男なんだと思う。だから、取引上のトラブルなんて、日常茶飯事だったんじゃないのかな?」
「具体的に、そういう事実があるわけか?」
「いえ、それは知らないわ。片山の偉いところは、家庭に、仕事を引き摺って帰ることはなかった点ね」
「ほう、それは凄いね。見上げた奴だ」
「違うのよ、見上げる価値なんかないのよ。トラブルがある間は、家に寄りつかなかった、ただそれだけよ」
「家に帰らずに、どこに帰っていたの?ホテルを転々としていたと云うのも納得しにくいけどね」
「女よ、3人くらいいる女の家にいたんだと思うわ」
「旦那に三人の愛人がいたってことか……」
「それで、その三人のことは、君の知っているわけ?」
「二人は身元調べも済んでいるわ、もう一人いるんだけど、その一人は、まだ判らないって感じね」
「そうなのか……」
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