第26章取り残された俺は、自分が放出した精液が漂う湯船で放心していた。
オスのしつこさのような精液独特の滑りが全身を覆ってゆき、最後には、肌全体に浸み込んでしまうような恐怖を感じた。
俺は、悍しい(おぞましい)湯から立ち上がった。そして、浴槽の排水キャップを引っこ抜いた。
排水機能が大きいのだろう、精液が全体に漂っていた湯が、みるみるなくなった。
檜の湯船の欠点に気づいた。
湯の上層に漂っていた筈の精液の残滓は、湯とともに流れることなく、湯船の無垢のヒノキの表面に纏わりついていた。
精液の痕跡を、綺麗さっぱり湯と共に洗い流すつもりは、あっさりと裏切られた。
何だ、流れないじゃないかと呟いて、風呂場を後に出来ないのが、俺の性格だった。
こういう客の為に置いてあるわけではないだろうが、亀の子タワシが目に入った。チャンと掃除をしてゆけと言わんばかりに、浴槽洗剤まで並べられていた。
ここまで、準備万端が整っていると云うことは、俺は、湯船を掃除する運命になっていたのだと、逆らう気もなく、亀の子タワシを手に取っていた。
精液の残滓は取り除いたようだが、亀の子タワシのパワーに感心しながら、俺の領域とは思えない部分まで磨き込んで、浴室を後にした。
既に、シャネル女は、何ごともなかったかのように、缶ビールを空にして、軽く寝息を立てていた。
俺は、缶ビールよりもコーラの方が飲みたかった。備え付けの冷蔵庫を覗いたが、コーラはペプシだった。
相当に不満があったが、ビールよりはマシだった。こういう、幸運なのか、不運なのか見分けのつかない日は、万が一にも疑われるリスクのある行為は避けておくべきだった。たまたま、酒気帯び検問をしているという事もあるのだから。
不味いと思いながら、コーラを二口呑んで、そして、煙草に火をつけた。女は、あいかわらずの姿勢で寝息を立てていた。
初めてあった男の勃起を弄び、射精までさせておいて、スヤスヤと寝息を立てる神経は相当なものだと感心した。
焼肉屋のサービスの一環に過ぎないとでも云うのだろうか。であれば、女の店は、相当に繁盛しているに違いなかった。
特に眠くはなかったが、煙草をもみ消して目を閉じてみた。
亀の子タワシの活躍は、俺に軽い疲労感をもたらしていたらしく、小一時間、そのまま寝てしまった。
日中の惰眠から覚めた時、一瞬自分が何処にいるのか、戸惑うことがある。まさに、俺は、そんな状態で目覚めた。
そして、そうだ、シャネル女と旅籠で寝ていたのだと、記憶が戻り、横に寝ていた女の姿を求めた。
しかし、既に、シャネル女の姿はなかった。
つづく
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