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第152章
「いや、待ってください」大谷は慌てたように、強引にエンジンキーを切った。そして、訝しくふり返る俺に、強い視線を返してきた。
「問題はここからです。上野の敵討ちと言えば綺麗ごとですが、この事件、追ってみようと思っています」
「追う……」
「ええ、私が引き継いで、記事を書いてみようと思ってまして……」
「社内的には……」
「そう、言われるでしょうね。でも最終的には黙認でしょう。責任は編集長の範囲で止まりますから……」
「会社は、金だけ面倒をみるか……」
「そういうことです。まぁ、私も何時もなら、スルーした方が無難と割り切るでしょうけど、A政権のやり口が性に合わなくてね。幾分、向きになっているんですが……。ここまで、汚い手に出るとは、常軌を逸していますよね。だったら、こちらの逸脱してやろうかってね……」
「挑戦ですか」
「メディアの腰砕けが酷すぎますから、J党に一矢報いるのも悪くないか、そんな気分になっちゃいまして……」
「そうですか、僕が言うのはおかしいけど……」
「少し、青臭いんじゃないか、と」
「ええ、まぁ……」
「その気分を、自分なりに分析したんですよ。その結果、正義感のような青臭さはありませんでした。どちらかと云うと愉快犯、そちらに近い気分なのだな、と……」
「愉快犯ですか……。しかし、正体まる見えの犯行ですから、相当にあぶない感じですけどね」
「ええ、きっと危ないと思います」
「敢えて危ないからやってみる、そう僕には聞こえますけど」
「そこまでは考えていませんが、上野だって、危ないかもと思いながら取材していたと思いますからね、自分の部下が、そう思って取材していたものを、其の侭お蔵入りさせる気にはなれませんよ。それに、のぞき趣味というより、社会的要求にも応じている事件ですから……」
「たしかに、A政権に鉄槌を喰らわせるのは、社会的には正義でしょうけど、返り討ちに遭う可能性も多いわけでしょう」
「まぁ、女房とも別れてますし、ひとり娘は、アフリカの難民キャンプで医療に従事していますからね、狙われる心配は、わたし一人ですから……」
「一人でも、充分に危険なわけですよ」
「ええまあ、私は大丈夫ですから」
「自分一人なら、身は守れるとでも」
「いや、奴らに掛かれば、どんなに防御しても無理ですよ。ただ、上野を消した上に、私まで消すのは、彼らにとってもリスキーでしょうから、違う手に出てくると読んでいます」
「なるほど、一理ありますね」
つづく