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第145章
「これが片山ノートですか……」
上野は、リストを一枚一枚、入念に目を通していた。俺の方も、自分の資料の方に目を通した。
「この中の人物の中に、キーパーソンが見つかると面白いネタですけどね……」
「あぁ、そうでなければ、週刊誌ネタにはならないね」俺は、資料を読み終えて、追加の珈琲を注文した。
「饗庭さんは、意味のある人物を見つけたと云うことですか」
「見つけたと云う程ではないけど、何人か、検索するとヒットする名前は確認したよ」
「その中に、有名人とか?」
「有名人が直接出ていることはなかったと思うけど、何人かは政治家や財界人の係累ではないのかな、という人物は確認したよ。リストの欄外に赤ペンでチェックした連中は、もしかしてと云う顧客だよ」
「このリストの人物たちが、片山某のクスリの顧客たちと云うのは、たしかなんでしょうか」
「まぁ、間違いはないだろうね。クスリの元締めが欲しがっているものだろうから……」
「しかし、どうやって饗庭さんは、このリストを」
「あぁ、ある人物が入手したのだけれど、その人にとっては不要なものだからね、単純に処分を頼まれただけ。そういうことにしておこう」
「なるほど、判りました。入手先は伏せて動けと云うことですね」
「そうだね。善意も悪意もない人だから、迷惑をかけるのは本意じゃないもんでね……」
「わかりました。このチェックのある森永俊祐ってのは、森永卓造政調会長の息子じゃなかったかな……」上野は呟きながら、リストを指さした。
「その人物、知っているのか?」
「ええ、高校の同級生ですよ。アイツならやりそうだったから、リストに名があっても不思議ではありませんからね」
「仮に、君の同級生なら、勤務先も知っているのか?」
「たしか、大手広告代理店で働いている筈ですよ」
「そう、だったら、芸能人とかが含まれていても不思議はないだろう」
「財界のボンボンも含まれていそうですね。これは、たいそうな代物ですね」
「あぁ、かなり危険な代物でもあるからね、俺は、手を引くよ。ここから先、進むも退くも、会社の方針でやることだ。君ひとりで、背負い込むのは危険すぎるよ」
「そうですね、政権中枢を揺さぶりかねないわけですから、慎重に……」しかし、上野の声は上ずっていた。今、入手した情報を手放す気など、さらさらない興奮が伝わってきた。
上野が、足早に去っていった。
俺は、冷めきった珈琲を啜って、もう一杯頼むべきか、迷っていた。
つづく