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第106章
「ビール、私にもちょうだい」寿美も、自分の家族の理不尽な企ての話題から抜け出すきっかけを探しているようだった。
「それにしても、君は、こんな話を、どうして俺にしてしまうわけ」寿美に缶ビールを渡しながら尋ねた。
「そうね。出来たら、兄たちの悪巧みを未然に防ぐ方法として、何か貴方に考えて欲しかったのかも」
「何とか終息の道はないものかと?」
「そうかもしれない。でも、自分でも、なぜ話しているのか、理由はあまりハッキリしないの……」
「まぁ、敦美さんが、君の兄さんたちの要求に理屈があるのなら、俺に5億円分を、別の人間に運用させるようにすれば良いだけだからね。筋が通っていれば、話は簡単だよ。ただ、敦美さんが、君の家族の要求を、俺には話すかどうか、そこは判らないからね」
「私は、敦美のお金なんてあてにしていないわ。自分で生きていくだけの甲斐性はあるもの。問題は、家族たちは、生きるのがやっと状態だから、そこが怖いの」
「そういう問題って、敦美さん次第なんだよね。おそらく、彼女が、君の兄さんたちを信用していない場合、俺がいなくなっても、お兄さんたちにお金を預ける可能性はゼロだと思うけどね」
「そうよね。貴方と云う人を排除しても、つぎつぎと貴方のような人を雇うでしょうから……」
「残念だけど、そうなるだろうな」
「そうなの。それに敦美を殺しても、それ程の現金持っているわけじゃないでしょうから、手に出来るお金は僅かなんだから……」
「俺を殺しても、同じことだからさ。数か所のファンドと信託銀行に金は預けてあるからね、小遣い銭にもならないよ」
「金持ちって、どこまでいっても旨い具合に回っているものね。大金持ちは、小銭しか持っていないってわけなのね……」
「そうだね、敦美さんに渡す金は、彼女の生活費の範囲だから、10万程度だよ」
「10万。それって少な過ぎよ。敦美に成りかわって文句言っても意味ないけど」
「半月ごとに渡すから、そんなもんだよ」
「それで、金主の敦美は文句言わないわけ」
「少なくとも、いま現在、文句は出ていないけど」
「そう、お金なんかいらないくらい、彼女は満足と云うことね」
「さぁ満足かどうか、直接聞いたわけじゃないけど、文句があれば雇い主なんだから、何でも言えるはずだよ」
「だから、お金ではない部分で満足している、そういうことよ」
寿美は、どこか不機嫌に言葉を投げつけた。
つづく