第73章俺は、敦美の話を聞いて、なぜか、俺は厄介な世界に足を踏み入れているような予感がした。
そうして、敦美と云う女が、考えている以上に状況を把握出来ている女なのに驚いていた。
旦那に覚せい剤を盛られているとも知らない馬鹿な女という印象は、訂正しなければならない事実に戸惑っていた。
「私ね、片山の本性は、結婚してすぐに判っていたわ。ただ、父を悲しませたくないと云うか、父も巻き込んで離婚騒ぎになるのを避けていたのよね。だから、覚せい剤の事件があってもなくても、片山とは別れるつもりだったの……」
「そのようだね。そう云う意味では、俺は余計なことに気づいただけと云うことになるね」
「んんん、そうでもないわよ。あの事実のお蔭で、片山と別れる時に、財産の一部を分けてやる必要がなくなったから、充分役に立ったわよ。一億くらいの貢献度かもしれないわよ。フフフ……」
「なんて人だ」
俺は一瞬言葉に詰まり、そう言うと、酒が飲みたい気分になっていた。
「ねえ、お酒飲もうか?」
「酒?まあ構わないけど、また明日、警察に行くんでしょう」
「二日酔いで行っちゃいけないわけ?」
「まあ、そこまで注文はつけないだろうけど、印象は悪くなるかも……」
「構わないわよ、私、犯人じゃないんだから」
「たしかに、そこまで気にしなくて良いか……」
「案外、貴方の方が、女みたいね、フフフ……」
俺は、たしかに敦美が指摘するように、女性的感性の強い男のような気がしていたので、敢えて、怒ることもなかった。ただ、愉快ではなかった。
「怒らないの?」
「女みたいって言い方にかな?」
「そう、男の人って、そういうこと言われると、すごく怒る人多いもの」
「どうかな、愉快ではないけど、自分でも、随分気のまわる男だと自認して、時折うんざりしているから……」
「そういうのって、自分で気づくものなの?」
「人によりけりだろうけど、俺は気づくね」
「どうしてかしら、性格的なもの?」
「さあ、自分への興味が強い所為だろうね。自分に惚れている所為とも言えるけど……」
「ナルシスト、そういうこと?」
「一般的に言うナルシスト、外見が中心な意味では違うね。自分が生きていくあいだに出来る仕事の量とか質への興味。難しいけど、そういうことかな?」
「へぇ、難しいこと考えているのね。疲れない?」
「疲れるよ。ヘトヘトになることもあるね」
「どういう形が、貴方の理想なわけ?」
「さあ、理想っていっても、理想が現実になることはないから、理想の百分の一でも実現で来たら、まあ、生まれてきた価値があるかな?そんな程度の悩みだよ。やめよう、俺の話は。君の話をしなければ……」
「良いのよ、今は、貴方の話がしたい気分なの……」
敦美も俺も、ルームサービスで注文したボトルを半分以上空けていた。
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