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終着駅442


第442章

金子弁護士には、吉祥寺の家の解体と、新たな家のラフな設計図を依頼した。

竹村家のシンボルツリー“樅の木”を残すことなど最低限の条件だけを提示しておいたので、あとは、新進気鋭だという、建築家の腕を確かめる楽しみが残された。

治療期間は最低でも4カ月、運が悪ければ1年近くなると、診察室で、村井先生は私に告げていた。

ただ、病室に顔を出して、個人的見解としては、4カ月前後に、要観察ではあるが、退院できるよう基本スケジュールを組んでいると、意気込みを伝えてくれていた。

その基本スケジュールを聞いて、村井先生は口にこそ出さないが、私の白血病が抗がん剤で、どの程度まで治癒する類の癌細胞であるか、一定のエビデンスを掴んでいるに違いないと理解した。

ただ、私は、そのことについて触れなかった。

そのことを聞いた瞬間に、良質な体質が、性悪な体質になるのではと、単純に怖れたからだった。非科学的なことだったが、凄く大切なことに思えた。

映子さんから、社長が、私の拒否反応に戸惑っていると伝えてきた。

映子さんとしては、私が、社長の跡を継ぐことを望んではいるが、現実には、容易なことではない点も、映子さんなりに、説明はしておいたと云う事だった。

三山社長の困った顔が浮かんだ。

しかし、彼の苦境を助けるからと云う情緒的判断だけで、受け入れられる話ではなかった。

大株主の片割れと云うだけで、社内全体が容認する人事とは思えなかったし、これから、大病と対峙しようとしている人間が、考える問題ではなかった。

それでも、映子さんの情報で、三山社長が、私が拒否反応を示したことを覚えている点、気分は軽くなった。

あと連絡をしておく必要があるとすれば、お義父さんだった。“竹村ゆき”は、当然のような態度で、私の乳房に小さな手をかけて乳首に貪りついていた。

オッパイを吸われるとき、母親としての幸せを感じるものだと言われている説明文を幾つか目にしたが、私には、その感情は湧かなかった。子供に対する感情移入が希薄なタイプだと云う事が、身を持って理解できた。

だからと言って、“竹村ゆき”を疎ましい存在だと思う気持ちもなかった。

……それにしても、高坂尚子の件では、お義父さんにお世話になったのだから、近況くらいは伝えておくのが礼儀よね……。私は、“ゆき”の頬を指で軽く突きながら、お義父さんの携帯を鳴らした。

『えぇ、数日中に治療を開始します。多分、生還できると思いますが、念のため、今までのお礼をしておきたいと思ったものですから……』

『治療を開始する?お腹の赤ちゃんに影響はないと云う事ですね?』

私は、そのお義父さんの質問を聞いて、出産の件を、お義父さんには伝えていなかったことに気づいた。手抜かりだったが、今さら手遅れな話だった。

『ご連絡はしていなかったのですけど、子供は無事産まれました。スミマセン、ご連絡を省略してしまって……』

『産まれた!予定日は1月でしたよね?』

『8カ月の未熟児でしたけど、無事産まれて、いま、私の腕の中で寝ています』

『そうでしたか、そりゃ知らずに失礼しました』

『いいえ、私が、色んな事に振り回されてしまって、連絡に手抜かりがありまして、こちらこそ失礼いたしました』

『いやいや、本当のお義父さんじゃないのですしね。それに、ご自分の病気の治療もあるわけだし、一つや二つ、抜けるのは当然ですよ。気になさらずに。それで、赤ちゃんは、もう保育器とかを脱出できたわけですな、そりゃよかった。美絵なんか、3カ月も保育器の中にいましたからね。僕は、駄目かもしれないと思っていたくらいです……』

『あら、美絵さん、未熟児だったんですか?』

その後で、高坂尚子の件にも触れたが、裁判中と云う状況なので、取り立てて情報はないようだった。お義父さんの言を借りると、5年やそこらは、刑務所の中だけはたしかだと、あらためて断言していた。

気になった情報は、お義父さんの会社の不動産ネットワーク情報内の、売り物件に、尚子名義のマンションが賃借権付きで売りに出されている、と云う情報だった。

お義父さんの説明だと、刑務所に入っているあいだ、あのマンションの管理が出来なくなる高坂尚子としては、手放すのが一番楽だと考えたのだろう、と云う解釈だった。

美絵の敵討ちをしたいところだが、相手がいなくなってしまい、気分は中途半端なままだが、忘れるしかないのでしょう、と力なく自嘲気味な笑い声を上げていた。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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