第19章
私はボンゴレを頼んだ。美絵さんは、つき合いが良いのだろう、食欲がなさそうなのに、シーザーサラダを頼んだ。
「それでね、気になることは、理屈で意味がない事でも、気持ちは違うわよね。私が、圭から引き出せる情報は、美絵さん以外につき合っている人が居るかいないかくらいのものよ」
「確認して貰えますか?」美絵は縋るような目で私を見つめた。
「任しておきなさい、とまでは言えないわ。圭が、どこまで話すか判らないし、絶対に、それが事実かどうかも保証は出来ないけどね」私は、原因を知っていながら、美絵さんの相談に応じている自分は、たぶん悪女なのだろうと思ったが、おくびにも出さなかった。
「お姉さんとお話している内に、何だか、細かいこと気にしすぎているのかなって思うんですよ。私が、そのこと騒いでいるのが分かったら、圭が怒りだすかもしれないし……」絵美のトーンが下がってきた。疑うに充分な経緯があっても、見て見ぬ振りをする方が、悧巧なのじゃないかと気づいたようだ。
「大丈夫よ。絵美さんの姿も形も隠して、上手に聞いてみるから。その点は心配ないわ。何らかの状況が分かったら、また会いましょう」
「お願いします。なんかご面倒なことお願いしてしまって」
「いいのよ。家族なんだから、ある程度心配しても罰は当たらないわ。わが家のみんなが、もう美絵さんは圭のお嫁さんだと思い込んでいるから、今更リセットは混乱の元だしね」
「本当にお姉さんのご厚意に甘えさせて貰いますけど、無理なお願いかもとも思っています」
「難しい探索だけど、私も気になるからさりげなく当たるから、あまり気にしないで」どこにボンゴレが入ったのかわからない気分で、美絵さんと別れた。女の勘というより、今回の件は圭の不注意だと思った。
私まで、悪女として、無理やり出演させられていると思った。同時に、元をただせば、私のちょっとした好奇心から生まれた共演なのだから、自業自得なこともたしかだった。この美絵を巻き込む疑惑騒動は、何らかの策を弄して、わだかまりを消しておく方が最善の方法だ。この程度なら、嘘も方便の範囲で片づけられる。
私は家路に向かいながら、その方便を探していた。美絵さんと私が偶然会ったので、お茶を飲んだ、と云う設定に無理はなかった。そこで、私の女の勘が働いたという前提で話の緒にはつけると思った。問題は、その私の勘による疑念を晴らす方法はどう云うものかだった。
私の代役を仕立てるのが、最も楽な方法だった。本当に、実践を伴うカウンセラーが存在し、カウンセリングしてくれる裏稼業が現実に存在することで、架空の作り話はバレずに作り上げることが出来る。
その方法なら、私とのコンサルされた状況を、その架空の裏稼業のカウンセラーにご教授されたと告白すれば良いことになる。美絵さんと云う女性が、いまだに、圭に首ったけなのだから、それ以上の疑念を持つ可能性は殆どない。
騙されているとしても、騙されるだけの根拠があれば、騙される正当性のようなものもあるわけで、美絵は快く、その作り話を信じようと努力する筈なのだ。
そうなると、大切なことは、裏サイトに、そういう裏稼業がネット上に存在することが重要だった。
私は家に戻って、ググり出した。圭はまだ帰宅していなかった。仮に帰宅していても、シナリオが完成しない段階で、話を持ち出すのは得策ではなかった。
セックスカウンセラー関連など項目を様々なワードで検索してみたが、殆どがスピリチュアルなもので、カルトに近いものが多かった。
…しかし、よくもまあ、こんな馬鹿げたスピリチュアルなカウンセラーが目白押しなのだろう?現代人が病んでいるのか、ネット上だから起きている掲示板的特長なの?…私はブツブツと独り言を言いながら、それでもググり続けた。
結局、現実的あったのは、“アダム**”と云うサイトだけだったが、スローセックスと銘打たれているので、根性なしか、勃起不全な男を救うサイトだと理解した。
カウンセリングの殆どが“セックスレス”に関するもので、私の望んでいる類とはかけ離れていた。それ以外は、すべてが援助交際を偽装したサイトの羅列、そしてエログロナンセンス世界だけだった。
なるほど、ここまで見つからないと云うことは、裏稼業のサイトを美絵さんが確認する可能性はゼロなのだから、現実にそんなサイトがなくても、あったことにして、話を架空することは問題ないと思った。何という無駄骨だったのかと腹を立てながら、架空シナリオの創作にとりかかった。
圭が、悪いことの教師のようにしていた中学の先輩Kを設定した。そして、そのK先輩の紹介で、一時ヘルス嬢として名を馳せたP子を紹介され、セックスのノウハウを伝授して貰ったという話をでっち上げた。
K先輩は闇の世界で生きている人なので、素人との交際は原則忌避しているけど、可愛がっていた後輩の圭と云うことで、闇のルートを使ってくれたことにした。
そうしておけば、美絵さんがK先輩に会いたくても、P子に会いたくても、それは適わないと逃げることが出来る。騙されたいと云う感情を持っている美絵さんが、そんなの嘘だと抗議の声を出す可能性はない、そのように私は推測した。
そのP子から、懇切丁寧なセックスカウンセリングを受けた、という言い訳で充分だろうと思った。それ以上の追及は、美絵さん自体が自縄自縛に陥るわけで、そのような愚かな選択をする女だとは思えなかった。これで、大枠は出来た。あとは、何をどのように教わったかだが、それを聞く勇気が美絵さんにあるとは思えなかった。
しかし、万が一と云うこともあるので、P子さんが、どのような言葉を通じて、圭に自信をつけさせたのか、その辺の大枠は決めておいた方が無難かもしれない。場合によっては、ある程度、具体的アドバイスの言葉を、美絵さんにも共有して貰いたいと、共犯のような気分にさせておくのも手だった。
考えれば考えるほど、涼は自分の悪魔の存在を意識せざるを得なかった。そして、このような面倒見の良さが、自分のセックスペットとして、圭を温存するために行われているのだと認識できるだけに、その悪徳ぶりに、我ながら感心した。
つづく
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