第10章-1
『…俺は今夜、夕飯食べて帰るよ。涼ねえさん、わかんないな、俺が起きたときにはいなかったから…”』次に目覚めたのは、圭が電話で話をしている時だった。
「母さんから。今夜、ご飯は食べるのかどうかってさ」圭が悪戯っ子のような笑顔を返してきた。
「変だよね。うちの母さんって、アンタの食事を作る時は真剣なのよ。アンタがいないときは、私と有紀は粗末な惣菜で騙されてしまうの。だから、いつも圭が家で食事しない日は、有紀と目を合わせて、自分たちで一品増やすンだから」
「そういう迷惑をかけていたとは知らなかったよ」
「まあ、アンタの所為ってわけじゃないからね。それに、私たちも悪いのよ。アンタは、母さんの作ったもの、何でも美味い美味いって食べるからね。私たちは、黙々と食べるだけで、張合いがなくなって当然なのよ」
「俺さ、イマイチな時でも、ウマいって言っちゃうしね」
「嘘つきなんだ」
「違うよ、折角作ってくれたものにケチつけるって、勇気いるからね。それで、母さんが不機嫌になる方が余程結果的に面倒だよ」
「ずるいんだ」
「ずるい、賢いとも言うね。まあ、楽な方を選んでいるうちに、そうなっただけだけどさ」
「圭は、私と有紀を見ながら育ったから、学習機能が正常に働いたのよ」
「そう、有紀ねえさんは、全然機能してなかったけどね」圭が笑った。
「そうね、逆に作用したわよね。でも、あれは彼女が意識的に、もっと親が頭にくる行為をしていたのだと思う」
「あれって、意識的だったの?」
「たぶん、初めのうちは。そのうち、今さら引き返せない有紀と云うイメージが出来ちゃったから、頭で行動していた自分が…」
「自分で自分をマインドコントロールしてしまった。それって、最近のアドラーの心理学応用の啓蒙教育でも、流行だよ。ただし、あっちは、世間の中で上手に生きる方法論だけど…」
「有紀は逆よね。生き難くする為に、それを利用した。でも、その困難さに、それなりに耐えて、進んでいるのも事実だから…」
「たしかに…」圭は有紀の破天荒な親泣かせの生きざまを思い出しているのか、遠くに視線を向けて、タバコの煙を美味そうに吐き出した。
つづく
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