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終着駅62 それから半年が過ぎた


 第62章

 それから半年くらいが過ぎて、姪の藍の誕生日と云うことで、私は圭と美絵さん夫婦の新居を訪れた。新居といっても、既に入居後1年以上が過ぎていた。代々木上原の新居は小ぶりだったが、高級住宅地に相応しい佇まいをみせていた。

 圭が逆タマになったのは、たしかなようだったが、特に美絵さんの尻に敷かれている風もなく、家族をつくりあげているようだった。本当に、呆れるくらい器用な男だと思った。

 玄関のチャイムを鳴らした。室内でチャイムの音が鳴っているのが聞こえたが、誰も出てこなかった。

 もう一度押そうとした時、玄関付近で人の動きがあった。動きだけではなく、騒がしい女の叫び声が洩れてきた。特に、喧嘩をしている叫び声とは違うトーンだった。

 私は構わずドアノブを押した。扉はチェーンされることなく、簡単に開いた。

 圭が藍を抱えて、廊下に佇んでいた。私の姿をみつけて、良いところに来たと言わんばかりに、安どの表情を浮かべた。

 「どうしたのよ?」

 「藍が、どうもO157ぽいんだよ。それで救急車呼んだんだけど」

 「そうなんだ、呼んでからだいぶ経つの」

 「いや、まだ10分くらいだから、最低でも、あと10分以上はかかると思う」

 「そう、でもO157なら、早く処置さえして貰えば大丈夫だよ」

 「そうだ、姉さん、悪いけど病院から戻るまで、留守番しててよ。義父さんも来るから。その時、バトンタッチしてくれる」

 「いいけど、義父さん(おとうさん)は、ずっと居られるの」

 「なんだか、泊まっていくとか言ってたから、問題ないよ」

 救急車のサイレンが近づき、少し手前で車が止まった。美絵さんが子供を抱き、圭が、症状を救急隊員に伝えているようだった。三人は後部の観音扉から車内に吸い込まれたが、救急車は動く気配がなかった。

 そうだった。救急車は急患の受け入れを、医療機関に確認してから走り出すのを思い出した。O157なのだから、死ぬような心配はないと思っていた。

 ただ、今にも死ぬのではないかと思って慌てている二人に、それを言うことは憚られた。意外に早く受け入れ先が見つかったらしく、救急車はサイレンと赤色灯を回転させて遠ざかって行った。

 「さてと」私は口にしながら、圭夫婦の新居に上がり込んだ。主のいない家に入り込むと云うことが、意外に重苦しいものだと初めて知った。家全体を覆うように漂っている匂いも、私の知らない匂いだった。

 義父さん(おとうさん)がいつ来るのかも聞いていなかったので、私は当分、何も知らない家の中で、義父さんを待つ羽目になってしまった。驚くほど手持ち無沙汰に佇むのだが、何から始めるのか、散らかっているものを整理して良いものかどうか、すべてに迷っていた。

 その時、圭から救いのメールが入った。
 つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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